メンテナンスを考える

埼玉県三郷市で発生した道路陥没事故をはじめ、日本全国そこら中で下水道や水道管の老朽化が原因とみられる陥没や漏水事故が多発しています。九州やら茨城やら今日未明には地元神奈川県鎌倉市で水道管が破裂したようです。

 

戦後、高度経済成長期に建設された社会資本は当然、老朽化してきており、例えば道路橋では、2040年で建設後50年経過する橋が75%に達する見込みであり、早急に修繕等の処置が必要な橋は現在でも既に約6万橋あると言われています。しかしながら処置を行うにしてもお金の問題や人の問題などがあり、なかなか追いつけないのが現状なので、冒頭述べたような陥没や漏水事故などが多発してしまっています。

 

これらを抑制するにはどうすれば良いか?単純な答えはメンテナンスすれば良いのですが、お金や人手不足などが課題となっているのが現状で、これを解決するために最近「メンテナンスDX」という言葉が国の機関や学識者の間で多く使われています。

 

「メンテナンスDX」とは、その名の通りメンテナンス(維持管理)にDX(デジタルトンスフォーメーション)を活用することで、これまで使用していなかった各構造物データの一元化DBや最新の非破壊検査などの新技術を適用することで、これまでのメンテナンスよりも安価、効果的・効率的に実施するという試みです。これまでの古いやり方を刷新し、新たな試みにチャレンジすることは今の課題を解決するためには絶対に必要なことであり、個人的には今後も推奨していくべきであると思っています。

 

しかしながら「メンテナンスDX」を推進していく上で新たな課題も出てきています。新技術の導入費用がかかる、新技術を使いこなせる技術者がいない(技術教育の拡充)などの課題があり、これについては国の機関も補助金やら技術教育支援など多くの施策を考えているようです。でも一番私が思う課題は「「メンテナンスDX推進ありき」になりすぎて、技術者が「技術の本質」を理解しなくなり、その結果、メンテナンスしたつもりが適正に行われず、結局は大きな事故が発生する」ことだと思っています。たとえば老朽化した下水道管を点検し補修するとします。これまではベテラン技術者が自ら劣化状況をみて、その原因や対処法を技術的知見から判断し、メンテナンスしてきました。具体的にはこの劣化は何が原因(ガスによる腐食?偏土圧によるもの?など)で、だからこのように対処(管種変更や防護板設置など)するという判断を技術者自らが実施してきました。ところが「メンテナンスDX」が推進されてくると、ある技術では、その技術自体の操作方法は技術者が理解しているものの、自動で出てきた結果について「目利き」(ほんとうに自動で出てきた結果が正しいのか?などのいわゆる「適正な判断」のこと)ができない技術者が出てくることが懸念されます。ですからここで一番私が言いたいことは

 

「「メンテナンスDX」を推進するのは良いが、それを扱う技術者においては、たんに操作を覚えるだけでなく「技術の本質」についての研鑽を怠ることのないようにしてほしい」

 

ということです。とくに日本社会では「メンテナンスDX」のような新たな取組みは、国や民間大企業などのいわゆる「発注者」が主導となり推進していくものと思われます。なので「発注者」側も現場の技術者にだけ適正な判断を任せるのではなく、責任をもって「技術の本質」を磨いていただきたいと思っています。

 

陥没による痛ましい事故が二度と発生しないことを祈りつつ、自分もより「技術の本質」を磨いていこうと思います。